彼岸の入
今年の彼岸の入りは3月17日だそうだが、彼岸を過ぎるといよいよ本格的春になる。
毎年彼岸が近くなると、夫が決まって言うセリフがあった。
「私の誕生日を過ぎると暖かくなるのです」と。
そのセリフがもう聴かれなくなった。
入院加療中であった夫は、彼岸を待たず鬼籍に席を置くことになった。
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18日に87歳になるはずであったが、そこまで踏ん張れなかった。
残念ではあるが、2年半も病魔と戦ったのだからよく頑張ったというべきなのかも知れない。
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コロナが蔓延し始め、家族といえど外来者の面会が禁止されて1年ばかりが経過した。
何度かオンラインによる10分面談はあったが、患者が起きている時間帯とは限らない。
しかも患者には認知障害もあったから、こちらの呼びかけが理解できたかは不明である。
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2月に入って病院から連絡があった。「今日・明日、外出しないでください」
深夜の呼び出しもあった、タクシーは午前5時からしか走らない。その時を待って駆けつけた。
そんなことが1週間続いたある日、旅立ちの日はやってきた。
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延髄梗塞で倒れた当初から人工呼吸器が入っていたから、会話を交わすことは不可能であった。
残念ではある。
しかし地震や津波あるいは交通事故で亡くなった人のことを思えば、何も言えない。
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「彼岸」を調べると極楽浄土のこととある。
「此岸」にいる私には彼岸で夫が何を思っているか知る術はない。
彼岸には花が咲き乱れ、良い香りがして心地よいという。
こちらで私は馬酔木の香りを嗅ぎ、クリスマスローズを愛でるしかない。
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生活していた時間に、し残した仕事は山積みである。
せめて自分自身の終活に時間を割くべきなのだろう。別れは突然降ってくるのだ。
さて何から始めよう。
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写真は裏山の山草や庭の花々、大門寺さんのものもあります。
2年半もの寝たきりにもかかわらず、褥瘡もできず医療機関の介護に深く感謝しています。
ご心配戴いた方々に深く感謝してご報告申しあげます。
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- 2021.03.15 Monday
- family
- 11:24
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- by 遊山